東京高等裁判所 昭和55年(ネ)1343号 判決 1980年9月24日
控訴人 有限会社勝山建材店 ほか一名
被控訴人 国
代理人 野崎弥純 斎藤和博
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人らの負担とする。
事 実<省略>
理由
一 控訴人らの本訴請求は、すでに確定した別訴民事事件の控訴審判決(東京高等裁判所が同裁判所昭和四九年(ネ)第八〇号同五〇年(ネ)第四三九号損害賠償請求等控訴事件、同附帯控訴事件についてなした判決、以下、「本件民事確定判決」という。)の事実認定に違法があると主張して、被控訴人に対し国家賠償法第一条第一項に基づく損害賠償を求めるものであることは、控訴人らの主張に徴して明らかである。
二 そこで考えるに、司法権の行使としてなされる裁判についても、国家賠償法の適用が当然に排除されるものではない。しかしながら、民事判決、とくに本件民事確定判決のような民事事件の本案訴訟についてなされる判決(以下、このような判決を単に「民事判決」という。)については、その本質に由来する制約のあることを承認しなければならない。すなわち、民事判決は、当事者間に争いのある民事上の権利関係について、当事者双方の提出した訴訟資料及び証拠資料に基づき、事実の認定及び法令の解釈適用を行ない、もつてその権利関係の存否を判断することにより、当事者間の紛争を終局的かつ確定的に解決することを目的とする国家行為である。そこで、現行の裁判所法及び民事訴訟法は、民事判決が当事者間の権利関係の存否に重大な影響を及ぼすものであることを考慮し、裁判所の判断に誤りがないことを期するため、裁判所の適正な構成について詳細な規定を設けるとともに、当事者の不服救済手段としての上訴制度及び再審制度を整備しているのであるが、その反面、民事判決が当事者間の特定の紛争を終局的かつ確定的に解決することを目的とするものであることに鑑み、民事判決に対する当事者の不服は、民事訴訟法の規定する上訴及び再審の手続のみによつてこれを解決すべきものとしているのである。従つて、このような現行法のもとにおいて、民事判決が所定の上訴手続を経て確定し、それに対する再審手続も終了するに至つた場合には、その後新たにその民事判決に再審事由に類する重大な違法事由のあることが判明し、しかも、当事者本人またはその代理人の故意、過失によらずして再審期間を徒過したなどの稀有、異例な特段の事情の存在しない限り、もはやその当事者は、相手方当事者に対してはもとより、国その他の第三者に対しても、その民事判決が違法であると主張して、その違法を前提とする損害賠償等の請求をすることは許されないものであり、他方、裁判所も、その民事判決が違法であると判断することはできないものと解すべきである。なお、右のとおり、民事判決の当事者においてその判決の違法を主張することが許されなくなつた場合には、その代理人であつた者においても、同様の主張をすることが許されないことは当然である。
三 これを本件について考察するに、本件民事確定判決は上告審(最高裁判所)における上告棄却の判断を経て確定したものであり、かつ、その後同判決に対して提起された再審の訴もすでに却下されていることは、当事者間に争いがないところ、控訴人らが本訴において右判決の違法事由として主張する事実はいずれも、控訴人らが本人または訴訟代理人として右の上告審及び再審の手続において主張し、当該各裁判所の判断を受けた事実の蒸返しにすぎないことは、右主張自体によつて明らかである。そして、本件の全証拠を検討しても、本件民事確定判決について、控訴人らになお同判決が違法であると主張することを許すべき前記のような特段の事情の存在することを認めるに足りる証拠は見出しえない。
四 そうすると、本件民事確定判決が違法であるという控訴人らの主張はその理由がなく、従つて、同判決が違法であることを前提とする控訴人らの本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、失当であるから、これを棄却した原判決は相当というべきである。
五 よつて、本件控訴はこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条、第九三条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 鰍澤健三 沖野威 奥村長生)